オランダの市民農園
小野子クラインガルテン(長野県飯田市) ※小野子クラインガルテンWebサイトより転載
世界で最も美しいといわれるオランダの市民農園は、フォルクストェイナ(人々の庭)と呼ばれています。
その起こりは、産業革命以前の農園労働者が、貧しい生活を少しでも支えるために、過酷な農園労働の合間に与えられた菜園で自給のジャガイモを生産し餓えをしのいだこととする意見もありますが、19世紀に農村から都市に流入してきた工場労働者達が、低賃金を補うために会社に耕作できる土地を要求したり、経営者が労働者のモラル向上や栄養補給に菜園の価値を見出し土地を貸し与えたこととする方が妥当かもしれません。
複数の菜園がまとまった農園は、1920年にできたアムステルダムの農園が最古とされていますが、1928年に早くも利用者協会の組織が設立されたことは、農園利用を勝ち取るための歴史がかなり以前からあったことを裏付けています。
オランダの市民農園は二つのタイプに分けられ、一つは野菜を作るだけの菜園で主として農村地域に多く全体の約七割がこのタイプです。
他方は主として都市部に多く、区画の中にサマーハウスと呼ばれる休憩小屋を持ち、野菜より花で埋め尽くされているようです。世界で最も美しい市民農園と評されているのは、この都市部にあるサマーハウス付きの農園のことです。その美しさの訳を、アムステルダム市内の市民農園から探ってみました。
アムステルダム市は、アムステル川にダムを築き、低湿地や海を埋め立てて造られた街で、複数の同心円状と数本の放射状の運河が、輸送と水抜きのために張り巡らされています。
市民農園も同様に水路を随所に配し、農園の水抜きと景観づくりを図っています。
区画の面積は約300㎡で、小屋の大きさは29㎡以下と取り決められています。
水路は高低差が少なく、排水による汚染が起こりやすいことから、有機無農薬栽培やバイオトイレの導入などに真剣に取り組んでいます。
電気や水道は、各小屋には配分されていないのも、利便性の追求より環境汚染への配慮だと云われています。
区画の庭は、花の国オランダらしく野菜の栽培より花の植栽が多くなされており、冬季を除いて美しい花で埋め尽くされています。
区画の小屋は、形や外壁、屋根など面積以外は各戸の所有者の趣味で自由とされています。普段の生活において、衣食住の内、住を最も重視するオランダ人らしく、全ての小屋は完璧に手入れされており、窓ガラスに一点の曇りすら見られません。窓ガラスの内側には、真っ白なレースのカーテンがかけられ、窓辺に鉢花まで置かれています。この小屋と区画の植栽、園路や水路の共有部分全てが美しく、管理が行き届き、そして全体として調和していることが、世界一美しい市民農園といわれる所以でしょう。
このように美しいオランダの市民農園は、他の欧州諸国と同様に市民農園利用者による協会組織で運営されています。
オランダ全体で約7万人の会員がいる市民農園協会は、国からの援助やドイツのクラインガルテン法のような法的裏付けもなく、自主的な運営を行っています。
しかし、協会は、市民農園の用地を市町村から安価に借りるなど、公益組織として位置付けられています。